これから先、安穏として勤め続けられるような職場はないでしょう。僕が、勤務している大学だって、新型感染症の影響で、教育方法が変わって来ているし、インターネットを介して学ぶ機会がどこにでもあると思う人が増えれば、入学者を集められなくなります。現在の大学ビジネスは、まだ大学を卒業することが、就職に有利であるという共同幻想を基盤として成り立っているわけですが、その幻想がいつ晴れてしまうかなんて、誰にも分からないものです。
自分の職場がいつまでもあって、雇い続けてくれるという前提に立つか、いつ無くなるかわかならないという前提に立つかによって、職場と自分との考え方は違ってくるはずです。後者に立てば、ひとつの職場に収入や仕事の機会依存していることがリスクであると気づくことになります。職場組織の視点に立てば、そこに働く人の収入源や活動の機会を全て提供する状況を作ることによって、職務条件について有利に交渉できるようになります。よくある話は、会社の財形貯蓄融資でマイホームを買った途端に、遠方へ転勤になって単身赴任することになるといったことがあります。それは、職場が働く人の財産形成に対して優位になるという例です。
フェファー(スタンフォード大学)とサランシック(カーネギーメロン大学)による「資源依存理論」は、経営資源の依存関係が、組織間に力(パワー)関係を生み出すということを説明しました。その経営資源が他者にとって、魅力的であればあるほど、それを持っている組織は、他者を強く依存させることができるため、交渉を有利に進めることができるということになります。このような社会関係は、組織間だけでなく、個人間や個人と組織との間にも生じます。
では、ある職場に対して、収入や活躍の機会を依存している私たちは、この相対的な力関係を緩和し、独立性を高めることができるのでしょうか。計らずも新型感染症の流行によって、財務業績を低迷させている企業が、従業員の兼業副業を積極的に後押しするようになっています。この機会に、個人は収入源を複数持つことができるようになっています。また、その機会を通じて得た会社の外での経験が、その職場の発展にとって必要なものであれば、その個人の職場における重要性が高まったことになります。
ビジネスにおける競争優位の元になる能力のことをケイパビリティと呼びますが、昨今の社会状況においては、どこの職場でも付加価値を生み出せるケイパビリティを持つことが、個人の人生における独立性と自由度を高めるため、より注視されているように思います。また、そういう人の集まる組織こそ、継続的に世の中で必要とされる価値あるプロダクトを生み出し続け、他の組織に対して相対的に優位な地位を築くことができるようになるのでしょう。
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